団欒一景 (お侍 拍手お礼の五十五)

        〜寵猫抄より
 


この冬は、何だか妙な案配で。
それを言やぁ、このところの気候はどこかがおかしくて。
爆弾低気圧だのゲリラ豪雨だの、
果ては つむじ風や竜巻きまでと、
突発的な変化や途轍もない悪天候に翻弄される事態は、
数え切れないほど襲ったが。

「こうも小刻みで天気と気温とが入れ替わるなんて、
 ちょっと例がないのでは?」

昨日は四月の中旬、
お花見出来るような暖かさだったものが、
翌日には 何とうっすら積もるほど、
雪が降ったという冷え込みよう。
そうかと思えば、
影も色濃く出来るほどのいいお日和、
これは暖かそうだねぇとお外へ出たのに、
垂れ込める空気はキンキンに冷えており、
これはたまらんと
襟巻きを取りにと家へ駈け戻ることになったりもし。

 ―― っくちん☆、と

陽あたりのいいリビングで、
宙を漂うおさかな風船を相手にし。
洒落じゃあないが、おととおととと、
上ばかりを見上げての、
どこか覚束無い追いかけようをしていた仔猫さん。
板の間の真ん中に ふと立ち止まると、
小さな肩や金の綿毛を揺らしつつ、
それは愛らしい くさめを1つ。
途端に、ひょいと腰を上げ、
機敏に間近へまでと寄ってゆくのが、
こちらも金の髪を陽だまりの中で温めた、
端正な細おもてをしたお兄さんで。

 「おやおや、あんよが寒かったかな?」
 「みゃあ。」

手慣れた手際で、
小さな肢体をひょいと優しく抱き上げ、
坊やがいたところへそのまんま座り込むと。
前へと投げ出す格好にさせた、
小さな小さなあんよの爪先を、
指先整えた綺麗なお手々で、
包み込むようにして くるんでやる。
一応は 仔猫Ver.の姿を模してのことだろか、
そちらもフリースっぽい白い靴下をはいている坊やだが、
触れた感触は微妙に冷たくて。

 「今日もなかなか温(ぬく)くなりませんものね。」

こんなに陽が照ってても、
ほら、サザンカの葉っぱも震えてますしね、と。
窓のお外を指差して話す七郎次へ、

 「にゃあ・みゅ。」

確かにそうね、なんかおかしいよねと同意したいか、
少々憤慨気味のお声で返す、久蔵坊やだったりするのが。

 他のお人には、
 家人のお膝へ抱えられたモヘアの毛玉、
 実は…小さな小さな仔猫の、
 何とも覚束ない鳴き声が、
 だがだが、間合いといい語調といい、
 不思議とお話ししているように聞こえて凄いと…

 “そういう順番になるのだろうな。”

家人のお二人へは、
白桃みたいな色合いの、
されど触れれば ぴとぴとふわふかな感触、
やわらか頬っぺをした坊やにしか見えぬのにね。
小さな肢体を抱えるお兄さんの、ちょうど肩口辺りへね、
黄色のフエヤッコっていうお魚の風船が泳いで来たもんだから、

 「みゃvv」

ちゅかまえりゅのとの視線を、
きらりんとお魚へ据えて。
暖かな懐ろの中で立ち上がり、
よいちょとお手々を延ばす坊やだったので。
そんな坊やが足場にしている自分のお膝、
こそりと浮かせて持ち上げて、
背伸びのお手伝いをしてあげる、
息の合わせようもなかなかに見事なそれであり。
そんなお兄さんの肩口に身を乗り上げて、
よーいちょ・よいちょと延ばされた小さなお手々が、
ふわんふわんと浮かんでた熱帯魚さんに触れる。
惜しいかな もうちょっとだったのへ、
小さな爪で引き寄せかかるのだけれども。
カリカリこしょこしょ、
幼い爪で擽られるのは敵わんとでも思ったか、
一旦触れてたお魚、なのに、やーよと逃げてったもんだから。

 「にゃっ!」
 「あ、これ。」

口惜しかったこともあったか、
その身を ていっと…乗り出しすぎた皇子様。
たちまち均衡崩してしまい、
抱えていたお兄さんの背中側へ、
わあと落っこちかけたのだけれど。

 「七郎次のぼりか?」
 「うにゃ?」
 「勘兵衛様?」

ひょいと身をかがめての、
片手だけで受け止めたという何とも鮮やかな対処。
いつの間にこんな至近へまで近寄っていたのやら、
うなじのところで大雑把にその蓬髪を束ねておいでの御主様、
執筆中だったはずの島田せんせいが、
わざわざおいでになっており。
途中で一回転したらしく、
それでもさすがはお猫様、くるんと廻ってのお尻からぽすんと。
勘兵衛の大きな手のひらの中、
誂えたもののように すっぽり収まっている態がまた、
何とも愛らしいったらないったらvv
しかも、自分の身へ何が起こったのかが判らぬか、
赤い双眸見開いて、
キョトンとしているお顔もお顔で、
何とも言えずのあどけなくって、

 「〜〜〜〜〜〜〜。////////」

あああ、何て可愛いのでしょうか。
うっすらと開かれた口許といい、
潤みの強い真ん丸になった目許が、
ぱちぱちっと瞬くたびに上下するまつげの長さといい。
誰がどう手を尽くしたって、
こうまで愛らしい子は おいそれとは生み出せぬ。
そんな坊やが、
和菓子のしんこ細工で練り上げたよな、
やわやわのお手々を伸べて来て。

 「みゃあvv」

抱っこしてとのお望みなのへ。
はいなと大急ぎで体の向き変え、
綺麗な両の手で、
伸べて差し上げかかった七郎次だったが、

 「…七郎次、その前に こっちも何とかしてくれぬか。」
 「はい? ………あらまあ。」

静電気でも起こっているものか、
仔猫の手を逃れつつ、
リビングのあちこちを空中散歩していた熱帯魚たちが、
今はなんと、
島田せんせえの髪を巣にでもしたいかのよに、
いつの間にやら集まって来ていたりして。
しかもしかも、
呆気にとられつつ、
七郎次がその中の1匹へと手を伸べれば、
すかさず、二人の狭間からのお声が上がる。

 「にゃにゃっ!」
 「……久蔵、もしやして此処へじゃれかかりたいのかな?」

それで早よう起こしてと手を伸ばして来たのかも?
今度こそはと手を差し伸べて、ほ〜れと抱き起こせば案の定、
シュマダシュマダと…言っているかどうかはともかく、
あらためての抱っこをねだるよに、
勘兵衛へと手を伸ばすお猫様であり。

 「儂は“魚礁”か。」
 「久蔵には判りませんて、
  そんな難しいお言いようをなされても。」

元はといや、
息抜きにと家人らの元へ来た勘兵衛だったに違いなく。
無邪気なおちびさんを相手に、
骨抜きになりかけておいでだった恋女房は、
そんなせいだろか、間近に寄るまで気づいてくれず。
そんな勘兵衛へ集まったのが、
仔猫様を翻弄していた熱帯魚たちで…。

  どっちの何が寄せ餌やら、
  まだまだ春は名のみの 今日この頃ですが、
  こちらのお家はほこほこと暖か。
  相変わらずな皆様がたであるようですvv




  〜Fine〜  2010.03.15.


  *if話もご無沙汰してますが、
   拍手お礼の方もそういえば…と、ふと思いまして。
   手短ですが、仔猫さんのお話をvv
   向こうをこそ書けばいいもんなんでしょうが、
   あちらは集中が要るのと、
   ある程度は尺もないと形になりませんので、
   もうちょっとお待ちいただければと…。

めるふぉvv ご感想はこちらvv

ご感想はこちらvv

戻る